よこはま乳がん学校とは

 

 日本における乳がんの患者数は増加の一歩をたどり、最新の統計では年間10万人を超えています。特に家庭や職場で中心的役割を担う世代の40歳後半から50歳代で発見されることが多く、治療に伴う身体的、精神的ストレスの大きさは計り知れません。

 

「全人的な乳がん診療」を実践するためには、手術や化学療法などの最新治療はもちろんのこと、診断から周術期のメンタルケア、治療に伴う副作用対策、高額医療制度などの社会的支援、治療終了後の就労支援に至るまで幅広い知識が必要となってきます。

 

 現在、乳がんの罹患者のうち、85%以上の患者さんは病気を克服して「もとの人生」へ戻ることができるようになりました。これからの乳がん診療は、治療だけではなく「がんが治った後の生活」も考えた患者支援(Shared Decision Making)が大切となってきます。

 

もちろん、これらすべての情報を、主治医が一人で患者さんへ提供するのは不可能です。そのためには看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなど多くのメディカルスタッフによるチームサポートが必要となります。

 

近年、「チーム医療」という言葉を多く目にしますが、実際の医療現場における「チーム医療の実践」については、多くの施設で試行錯誤を繰り返しているのが現状だと思います。

 

このような背景のもと、よこはま乳がん学校は「患者中心の実践的なチーム医療を推進する」ことを目的として、2007年7月に横浜市立大学乳がん学校として開校いたしまし、今年で16年を迎えました。本校は「病を診る治療だけではなく人を看る診療を大切にする」を理念とし、がん診療におけるチームリーダーを育成するために活動しています。

 

第5期生までの5年間は神奈川県内を中心に活動してきました。2012年からは活動の場を日本各地へ広げていくために、名称をよこはま乳がん学校と変更し、2012年10月からは青森乳がん学校、2015年2月からは沖縄乳がん学校を開校して、「地域に根ざしたチーム医療」を創っています。

 

よこはま乳がん学校の大きな特徴の1つめは「体験型医療講座」であることです。医療現場で患者さんに関わる専門職が集い、最新の医学情報を共有し、その知識をグループワーク(GW)で実践します。

 

特徴の2つめは、実際の医療現場で乳がん患者さまに接する医師、看護師、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、臨床心理士など多く専門職が同一の場で講義を受けて、その知識をグループワークで実践することにあります。

 

これまでに12期を開催しており、2023年春までによこはま乳がん学校を修了した医療者は医師124名、薬剤師191名、看護師354名をはじめ、日本全国各地から860名となっています。また、2012年10月からは青森乳がん学校、2015年2月からは沖縄乳がん学校、2022年8月からはにいがた乳がん学校を共催して、「地域に根ざしたチーム医療」を創るために日本全国へ展開しております。

よこはま、青森、沖縄、にいがたを含めると延べ1840名の医療者が、それぞれの施設でチーム医療の先駆者として活躍しています。

 

遠方からの参加のしやすさ、ならびにCOVID−19再流行の可能性が高まっている現状を踏まえ、今年度のよこはま乳がん学校もWeb形式で開催いたします。各講義はオンデマンドで3か月間、繰り返し視聴可能とし、GWはZoomを使ってディスカッションを行います。今年度も乳がん診療に関する最新情報を学ぶために、15講義(プログラム参照)を準備しています。

 

がんと闘う患者さんとそのご家族へ、少しでも多くの「元気」と「勇気」が届けられるよう、皆さんと一緒に「患者中心のチーム医療」を創っていきたいと思っています。2024年1月から始まる「よこはま乳がん学校第13期生」に、より多くの施設からさまざまな職種の方々にご応募いただきますようお願い申し上げます。

 

NPO法人神奈川乳癌研究グループ 理事長

昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門 教授

昭和大学横浜市北部病院乳腺外科 診療科長

千島 隆司